
本記事では、これからオンライン診療の導入をお考えの方向けに、オンライン診療について必要な届出や設備を解説します。
オンライン診療とは?
オンライン診療とは、パソコン・スマホ・タブレットのビデオ通話等を介し、Web上で行う診療・治療のことです。
厚生労働省が2018年3月に出した指針(「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の事です。)では、次のように定義されています。
遠隔医療のうち、医師-患者間において、情報通信機器を通して、患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を、リアルタイムにより行う行為
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」/厚生労働省HPより
オンライン診療の対象になるのは?
オンライン診療が保険適用とされたのは2018年。
当初は生活習慣病、がん、難病や認知症患者など、定期的な受診が必要とされる患者が対象でした。
しかし、新型コロナウィルス感染症の拡大を受け、厚生労働省は2020年4月にオンライン診療に関する通達を発出しました。
これにより、対象者を特定疾患に限定せずに、電話やオンラインによる医療相談・受診が可能となりました。
高齢化の対応やデジタル化推進の流れの中、オンライン診療への需要は高まるものと見られています。
診療報酬は?
令和4年度の診療報酬改定では、次のように定められています。
施設基準を満たし、地方厚生(支)局長に届出を行った医療機関
- 初診料 251点
- 再診料 73点
施設基準の届出を行っていない医療機関:新型コロナの臨時特例を採用する
- 初診料 241点
- 再診料 73点
オンライン診療導入のメリット
オンライン診療の導入を検討する際、知っておきたいメリットは下記の通りです。
- 新規患者の獲得
- スムーズな診療が期待できる
- 院内感染のリスク低減
- 事務負担の軽減
- 治療の継続率アップ
新規患者の獲得
オンライン診療は、もともと「遠隔診療」の1つとして、医療機関が少ない離島や僻地などで活用されてきた背景があります。
体調の悪い患者にとって、通院は負担を伴います。
しかし、オンライン診療なら距離的な制約や、人目を気にしないメリットがあります。
健常時よりナーバスな状態であればあるほど、患者が受ける恩恵は大きくなるのです。
スムーズな診療が期待できる
対面診療の場合、受付から診察までの間、複数の動作が必要となり時間をとられます。
オンライン診療の場合、データのやり取りが可能なので大幅に時間と手間をカットできます。
また、問診内容などをデータで残す事が出来るため、診察時の比較や保管が容易い事も魅力です。
院内感染のリスク低減
対面治療とは違い、電話やモニター越しでのやり取りとなる為、患者のみでなく、スタッフ等の感染リスクが抑えられます。
院内感染が発生すれば、診療を継続出来なくなる場合もあります。
こうした事態を未然に防ぐのにも、オンライン診療は有効です。
事務負担の軽減
オンライン診療では、受付、会計、次回予約などの業務は全てオンラインで完結します。
このため、事務スタッフの負担が大幅に軽減され、本来の業務に集中できるメリットがあります。
治療の継続率アップ
患者にとって通院は、時間的・距離的負担を伴います。
そのため、症状が顕在化し、苦痛を伴うまでガマンしてしまう人や、完治前に治療を辞めてしまう人も珍しくありません。
高齢者や負傷者など、通院が難しくても受診可能なのは勿論、受診場所を自分で選べ、余計な時間を省ける点では、忙しい人にとっても大きなメリットだといえます。
オンライン診療のデメリットは?
メリットだけを開示するのはフェアではないので、デメリットもご紹介します。
- 診察できない疾病がある
- 情報漏えいリスクを負う
- 患者都合で導入できない場合がある
診察できない疾病・疾患がある
オンライン診療では、触診・聴診などの直接的な診察が行えません。
そのため、症状によっては十分な診断ができない事もあります。
この場合、医師が訪問したり通院してもらうしかありません。
また、外傷の処置や採血、撮影等を用いた検査が必要な場合もあります。
こうした部分に留意して、対面診療とうまく併用していきましょう。
情報漏えいリスクを負う
オンライン診療では、インターネットを通じて行う事が大前提です。
そのため、医師や患者の個人情報を盗まれるリスクに晒されます。
自院のセキュリティ体制を、常に万全に整えておきましょう。
患者都合で導入できない場合がある
いくら最新の設備を整えていても、患者側が不慣れだとうまく活用できない場合があります。
プライベートでテレビ会議システム(Zoomなど)を利用している人も多いですが、まだまだ不慣れな人もいる事に留意し、前もって使用方法などを教示するようにしましょう。
必要な手続は?
施設基準さえ満たし、地方厚生(支)局に届出を提出します。
オンライン診療導入までの流れ
下記の通りです。
- 施設・設備の整備
- 地方厚生局へ届出
- 届出が受理されるとオンライン診療可能に
- 対象患者と診療計画を作成
オンライン診療導入の要は
オンライン診療導入の要は、何といっても施設基準をクリアする事です。
現行では、施設基準を満たしていなくてもオンライン診療を実施し、初診・再診料を請求できます。
しかし、国は施設基準の届出を推奨していて、届出の有無で初診料に差異を設けているのはこのためでもあります。
オンライン診療の施設基準
厚生労働省が示した指針では、下記の通りです。
- 情報通信機器を用いた診療のための十分な体制が整備されている
- 厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に沿って診療を行う体制を有する保険医療機関である
- 対面診療を行える体制である
- オンライン診療を担当する医師が、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」で定める「厚生労働省が定める研修」を修了している
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」/厚生労働省HPより
4の「オンライン診療の厚生労働省が定める研修」は、こちらから受講申込みができます。
修了時に「厚生労働省指定オンライン診療研修終了証」が交付され、届出時に添付します。
オンライン診療に必要な機材等
オンライン診療に必要なものをご紹介します。
医療機関が用意するもの
- パソコン・スマホなどの情報通信機器
- インターネット環境
- セキュリティシステム
- オンライン診療用のアプリ
- オンライン診療計画書
オンライン診療は、医療機関・患者とも、インターネット環境が整っていることが大前提です。
自院のネット環境に不安がある場合、導入前に十分な整備を行っておきましょう。
また、効率化を目指すならシステム選定も欠かせません。
一部の電子カルテには「オンライン診療」機能が実装されていますので、お使いのシステムと比較検討されるといいでしょう。
オンライン診療計画は、診療方法や使用機器、セキュリティリスクなどを記した書類の事です。
オンライン診療の開始前に、診療対象となる患者と一緒に計画書を作成し、合意を得る必要があります。
患者が用意するもの
- パソコン・スマホなどの情報通信機器
- インターネット環境
- 支払用のクレジットカード等
オンライン診療に用いるアプリの多くは、クレジット決済対応です。
患者がクレジットカードを持っている場合、支払をアプリ上で完結することができます。
もしも持っていない場合は銀行振込、その他の電子決済などを検討しましょう。
必要があれば薬を処方しますが、処方には3つの方法があります。
今のところ主流なのは「来院」「処方箋の配送」「薬局経由で薬を配送」です。
いずれを選択しても大丈夫なように情報共有をして、互いにしっかり準備しておきましょう。
届出の前に必要なポイント
必要なものが揃ったら、届出の前に下記のポイントをチェックします。
- オンライン診療をする医師は、研修を受講しておく
- カルテへの記載
- 急変時への備え、紹介先の確保
- 適切な診療を行った事を記録する
- 診療計画を作成し、患者に合意を得る
- セキュリティ体制の構築
オンライン診療をする医師が研修を受講
厚生労働省が定める「オンライン診療研修」を、オンライン診療をする医師が受講して修了する必要があります。
終了証の取得が届出要件の1つ、というのも勿論ですが、届出をする気がなくても、基礎的なルール習得のために受講しておくことをオススメします。
カルテへの記載
オンライン診療を行った場合、下記の項目をカルテに記載する必要があります。
- 診療の内容
- 診療を行った日
- 診療時間
オンライン診療料の算定には、診療報酬明細書の摘要欄に「オンライン診療料の対象管理料等の名称及び算定開始年月日」等、記載の必要がある事項も確認しておきましょう。
急変時の備え・紹介先の確保
オンライン診療中に患者が急変した場合、自院で対応できないケースもあります。
こうした場合に備え、急変患者を受け入れられる医療機関を事前に確認しておく必要があります。
対面診療可能な医療機関を確認したら、対象の患者に必ず通知しましょう。
適切な診療を行った事を記録する
オンライン診療についての「適切な診療」とはどのようなものでしょうか。
この点、一般社団法人日本医学会連合が「オンライン診療の初診に適さない症状」「オンライン診療の初診での投与について十分な検討が必要な薬剤」を公表しています。
オンライン診療にあたる医師は、これらの内容を「診療内容が適切かどうか」の指針とし、カルテや診療報酬明細書への記載を行わなくてはなりません。
Ⅰ 内科系の症状
1.緊急性により初診からのオンライン診療に適さない状態
(1) 呼吸器系の症状
ア 急性・亜急性に⽣じた息苦しさ、または呼吸困難
イ 安静時の呼吸困難
ウ 喀⾎(⼤量の⾎痰)
エ 急性の激しい咳
オ 喘鳴
カ 急性・亜急性に⽣じた嗄声(2) 循環器系の症状
ア 強い、あるいは悪化する胸痛/胸部圧迫感
イ 突然始まる動悸
ウ 症状を伴う⾎圧上昇(3) 消化器系の症状
ア 強い腹痛
イ 強い悪⼼/嘔吐
ウ 吐⾎
エ ⾎便/下⾎(4) 腎尿路系の症状
ア 発熱を伴う腰痛、排便障害、下肢の症状を伴う腰痛(5) その他
引用:一般社団法人日本医学会連合「⽇本医学会連合 オンライン診療の初診に関する提⾔ 2021 年 6 ⽉ 1 ⽇版」より一部引用
ア 強い痛み
オンライン診療計画書を患者と作成し、合意を得る
オンライン診療の診療方法、使用する機器、セキュリティリスクなどを記載した「オンライン診療計画書」を、診療前に患者と作成します。
計画書に記載する事項や、計画策定にあたり検討すべき内容を事前に確認しておきましょう。
計画作成後は必ず、患者から「合意」を得なければなりません。
セキュリティ体制の構築
現在リリースされているオンライン診療専用サービスは、初期費用が数十万円かかるものや、導入までの手続が煩雑で、時間を要するものがほとんどです。
これらの要因として、厚生労働省が発するガイドラインに準拠した設計を念頭に置いている事が考えられます。
とはいえ、既存のセキュリティシステムでは心配という状況での導入は、医療機関・患者双方にとってマイナスです。
初期費用だけでなく、何度も改訂が繰り返されるガイドラインへの対応を含め、長期的な安心を提供できるサービスを採用することがベターだといえます。
届出の流れ
- 必要書類の準備
- 提出
必要書類は
- 別添7、基本診療料の施設基準等に係る届出書
- 様式1、情報通信機器を用いた診療に係る届出書添付書類
上記2種類の書類を厚生局HPよりダウンロードし、記入します。
どちらもチェックを入れるだけなので、難しい事はありません。
作成したら、地方厚生(支)局へ提出し、受理されるとオンライン診療を始められます。
診療計画を作成し、患者に合意を得る
カルテとは別に、オンライン診療計画書の作成が義務づけられています。
- 診療内容、疾病名、治療内容
- オンライン診療と対面診療、検査との組み合わせに関すること
- 診療時間
- 使う情報通信機器
- オンラインを行わないと判断する条件と、その条件に該当したら対面診療に切り替える旨
- 触診ができないので得られる情報が限られる旨
- 急病急変時の対応方法
- その他
診療計画の内容は、メールや文書で交付することが理想です。
しかし、口頭で伝えても問題はありません。
保管期限は、オンライン診療の患者の診療が完結した日から2年以上とされています。
セキュリティ体制の構築
オンライン診療では、インターネットを使用するため、サイバー攻撃等への対策を講じなければなりません。
そのため、自院のセキュリティ体制の強化が必要となります。
まとめ
本記事では、オンライン診療導入までの流れと、メリット・デメリットを見てきました。
導入までの流れは下記の通りです。
- 施設・設備の整備
- 地方厚生局へ届出
- 届出が受理されるとオンライン診療可能に
- 対象患者と診療計画を作成
オンライン診療のメリットは下記の通りです。
- 新規患者の獲得
- スムーズな診療が期待できる
- 院内感染のリスク低減
- 事務負担の軽減
- 治療の継続率アップ
オンライン診療のデメリットは下記の通りです。
- 診察できない疾病がある
- 情報漏えいリスクを負う
- 患者都合で導入できない場合がある
患者のニーズが高まる今、クリニックの激しい生存競争を生き抜く力になるオンライン診療の導入は有効です。厚生労働省もオンライン診療の普及に対し、推進する立場を取っています。
本記事がオンライン診療導入に関し、検討材料になれば幸いです。
この記事を書いたのは
ヲタク行政書士®榊原沙奈です。