
亡くなった方の配偶者がご自宅に住み続けつつ、他の財産とのバランスを保った遺産分割を実現するための手段として「配偶者居住権」という選択肢があります。
ただ、残念ながら「配偶者ならだれでもOK」という制度ではなく、一定の条件をクリアする必要があります。
そこで、本記事ではクリアすべき条件や必要な手続きをわかりやすく解説します。
Contents
配偶者居住権とは?
配偶者居住権とは、死亡人が所有していた自宅を「住む権利」と「所有権」という2つの権利に分け、死亡人の配偶者が「住む権利」、それ以外の相続人が「所有権」等の権利を相続する制度です。
例えば、死亡人(夫)の財産が次の通りだったとします。
✓ 預貯金等3,000万円
相続人は、夫の生前から自宅に住んでいた妻、自宅を離れている子の2人だったとします。

この場合、配偶者が今後も自宅に住み続ける目的で自宅を相続し、残る預貯金を子が相続したとします。
額面だけを見れば法定相続分の枠内なので、平等に見えるかもしれませんが、預金を一切相続できない配偶者は、その後の生活に困る可能性があります。
相続では、不動産を評価額で考えますが、現実には、現金にはなりませんよね💦
そこで、不動産・預貯金を次のように分けます。

不動産には、配偶者居住権と所有権等の2つの権利があります。
配偶者居住権を持っている人は、その不動産に住み続けることができ、所有権等他の権利を持っている人は、不動産を売った際の代金を受け取ることができる点が異なります。
妻が持つ「自分の住まいを確保する」という目的はこれで叶えられますし、自宅そのものを物理的に相続しない他の相続人にとっても、所有権という民法上絶対と呼ばれる権利を獲得できる点で合理的な選択だといえそうです。
こんな風に、自宅を2つの権利に分けることで、各相続人の権利を守り、遺産分割を平和的に実施する目的で創設された制度が配偶者居住権だといえます。
令和4年の登記件数は〇〇〇件!
令和4年の1年間に登記された配偶者居住権の登記件数は892件、個数は922件でした。

参照:不動産登記(年計表)第8表「種類別 不動産登記の件数及び個数」|法務省
令和2年は”すずめの涙”程度の登記件数しかありませんでしたが、令和3年から去年にかけて増加傾向にあります。
この背景には、新制度に対する認知度の向上があるものと拝察します。
新しい制度の認知、知識の浸透には時間が必要なんですよね😓
配偶者居住権のメリット
配偶者居住権のメリットをまとめると、次の通りです。
✓ 登記することで第三者に対抗できる
✓ 遺留分対策として有効
✓ 配偶者の生活資金、納税資金の確保
✓ 賃料の支払い義務の免除
登記することで第三者に対抗できる
配偶者居住権は、登記が必要な制度です。
この登記を経ることにより、第三者に対抗することができます。
第三者に対抗とは、正当な権限のない人からの「建物を明け渡せ」という請求に対し、登記を根拠に拒むことができることをいいます。
遺留分対策として有効
相続財産の大半を自宅が占めている場合、配偶者が自宅を相続することで、他の相続人の権利を侵害する可能性があります。
そうなると、遺留分侵害額請求をされ、現金の支払いを余儀なくされた結果、最終的に自宅を手放すことになりかねません。
恒例の配偶者だと賃貸物件の契約も厳しく、住むところに困ってしまいます💦
このような場合に配偶者居住権を活用すれば、自宅に住み続ける権利が欲しい配偶者と、他の相続人とでうまく分割ができ、平和な遺産分割が期待できます。
配偶者の生活資金、納税資金の確保
相続財産の計算では、土地・建物などの不動産はその金額で判断します。
築年数の長い建物でも、預貯金より高額になることも間々あり、配偶者がこれを相続することでバランスが崩れる場合があります。
これに対し、不動産を配偶者居住権と所有権とで分けた場合、所有権に比べると配偶者居住権は価値が低いため、所有権を他の相続人に渡すことで預貯金を相続することができます。
賃料の支払い義務の免除
配偶者居住権は、無償で自宅を使用できる権利です。
一般的な賃貸借は有償ですが、遺された配偶者は賃料を支払うことなく自宅に住み続けることができます。
配偶者居住権のデメリット
配偶者居住権の最大のデメリットは、1度権利を設定した配偶者が、生きている間にその権利を消滅(放棄)すると、所有権を相続した他の相続人に対し、贈与税が課せられるところです。
権利の設定時に有効期間を定めることになりますが、この際、何年に設定するのかは慎重に決めていきましょう。
配偶者居住権の活用がおすすめなケース
配偶者居住権は、あくまでも遺産分割方法の1つです。
次のようなケースでは、活用を検討するのもいいでしょう。
(1)配偶者の住むところを確保したい!
配偶者が高齢で、今後の住環境に不安がある場合。
登記が義務付けられ、かつ、有効期間を終身にすることもできる上に、無償で住み続けられる配偶者居住権は心強い権利です。
(2)相続財産の半分以上を自宅が独占!
預貯金が少額で、自宅が相続財産の半分以上を占めている場合、各相続人への平等な分割の一案として配偶者居住権は非常に有力です。
遺留分侵害額請求を起こされた場合等を考えると、あらかじめ公平な分割をしておくのが安パイですよね。
(3)配偶者に預貯金を相続させたい!
親御さんの今後を考え、少しでも多く相続させてあげたい!というお子さんにもお勧めです。
配偶者居住権は、所有権と比べると価値が低いです。
自宅をまるごと相続する場合と比べ、配偶者に自宅以外の財産を相続させやすくなります。
設定後に配偶者が死亡した場合
配偶者居住権は、その配偶者が死亡した場合に消滅します。
その後は、所有権を相続した相続人が、居住権も含めて所有することになります。
要するに、権利を2つに分ける前の状態に戻るわけですね。
ちなみに、配偶者居住権の消滅(配偶者死亡)による権利の移転関係に対し、相続税はかかりません。
税に関するご不安・お悩みは税理士までご相談ください✨
配偶者居住権活用までの流れ
実際に配偶者居住権を活用するには、次の流れで進めていきます。
(1)設定要件を満たす
(2)決められた方法により設定する
(1)設定するためにクリアすべき条件は?
配偶者居住権を設定するには、死亡人の所有する物件に、生前から住んでいたことが必要です。
ちなみに、自宅が死亡人と配偶者以外の第三者の「共有」状態だった場合には、配偶者居住権を設定することができません。
(2)配偶者居住権設定の手続き
配偶者居住権の設定は、次の方法によります。
✓ 遺言書
✓ 遺産分割協議
✓ 家庭裁判所の審判
配偶者居住権が設定されると、所有権を取得した相続人に「配偶者に登記をさせる義務」を負うことになります。
配偶者居住権の活用前に注意すべきポイント
ここまでポジティブな意見を取り上げてきたので、注意点をお伝えしておきます。
(1)相続税は免除にならない
配偶者居住権は相続財産に該当します。
もっとわかりやすく言えば、相続税がかかります。
自宅の権利を「住む権利≒配偶者居住権」と「所有権等」の2つに分ける、という点から所有権等を取得した相続人のみが税金を納めるのではないか?とお考えの方もいるかもしれません。
しかし、どちらの権利を取得した相続人に対しても、取得した権利に応じた相続税が課されます。
税金は誰も特別扱いせず、どこまでも平等なんです(しみじみ)
(2)配偶者居住権が有効な間は○○しづらい!
配偶者居住権の設定中は、原則、賃貸に出すことができません。
いずれ賃貸に出したい、売却したいとお考えの方は、設定時の有効期限に気を付けるか、別の遺産分割方法を検討するのが望ましいでしょう。
(3)配偶者居住権は○○できない!
配偶者居住権は、譲渡することができません。
原則、配偶者が住み続けることが求められます。
ただし、所有者の承諾をもらうことで、第三者に使用収益を許すこともできます。
(4)配偶者、所有者関係には注意
厳密には異なりますが、同じ自宅を別々の形で「共有」している配偶者と所有者の関係が悪化すると、トラブルに発展する可能性があります。
具体的には、自宅に関する物理的なトラブルにつき、配偶者から所有者、所有者から配偶者に損害賠償請求を求めるようなケースが考えられます。
自宅を好きな時、好きなように、自由に取り扱いたいとお考えの方は、相続時に別の分割方法を検討しましょう。
まとめ
今回は、配偶者居住権について、活用できる条件と手続き、注意点を解説しました。
相続人同士での話し合いが不調な場合は弁護士、登記に関するお悩みは司法書士、相続税などに関連するお悩みは税理士までご相談ください。
もちろん、行政書士も相続全般について承れますので、「誰に相談すればいいのかわからない」という場合には、とりあえず行政書士!とお気軽にご相談いただければ幸いです☺️
この記事を書いた人は
ヲタク行政書士®榊原沙奈です。