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問5
履行遅滞に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
- 不法行為の加害者は、不法行為に基づく損害賠償債務について、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
- 善意の受益者は、その不当利得返還債務について、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
- 請負人の報酬債権に対して、注文者がこれと同時履行の関係にある目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、請負人に対する相殺後の報酬残債務について、当該残債務の履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
- 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った後に履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
正解:2
当設問は、遅行遅滞についての知識を問うものです。債務者が履行遅滞になるタイミングは、履行期の定め方により異なります。
履行期の定め | 履行遅滞になるタイミング |
---|---|
確定期限がある場合 | 期限の到来したとき |
不確定期限がある場合 | 下記のうち、早いほう 1.期限到来後に履行の請求を受けた時 2.期限の到来を知った時 |
期限の定めがないとき | 履行の請求を受けた時 |
不法行為に基づく損害賠償請求権 | 損害の発生と同時 |
1:誤り
不法行為に基づく損害賠償債務の履行期は、原則、不法行為時です(民法第412条第1項、第709条)。
この場合、加害者は請求を受ける前から遅滞責任を負うことになり、催告は不要です。
したがって、本肢は誤りです。
2:正しい
善意の受益者は、不当利得返還債務の履行について、期限の定めのない債務だと考えられ、受益者が履行の請求を受けた時から履行遅滞の責任を負います(民法第412条第3項)。
不当利得とは、法律上の原因がないにもかかわらず、買主の損失により、売主や受益者に利得が生じ、両者の間に因果関係が認められる場合、その利得のことを指します。
したがって、本肢は正しいです。
3:誤り
注文者が請負人に対し、ホテルの新築工事を依頼した時点では、請負人の仕事完成義務が先履行義務です。
そのため、請負人の引渡義務と、注文者の報酬支払義務は同時履行の関係となります。
本肢には「瑕疵修補に代わる損害賠償債権」とあることから、請負人は引渡しについて、予定納期より遅滞しているだけでなく、引渡された建物には契約不適合があったことがわかります。
この場合、注文者は下記の方法で請負人の責任を追及することができます。
請求内容 | 請負人の帰責事由 | 注文者に帰責事由が 存在する場合 |
---|---|---|
追完請求 | 不要 | 不可 |
報酬減額請求 | ||
契約解除 | ||
損害賠償請求 | 必要 | 可能 |
上記のうち、注文者が選択した損害賠償は、請負人の注文者に対する報酬請求権と同時履行の関係にありますが、注文者は相殺の意思表示をしています(民法第533条)。
本肢の「注文者は、請負人に対する相殺後の報酬残債務について」という記述から、「報酬額>損害賠償額」だったことがうかがえますね。
相殺が行われた場合、相殺の意思表示が効力を生じた時点が履行期となり、注文者はその翌日から履行遅滞の責任を負います(最判平9.7.15)。つまり、履行の請求を受けることなく履行遅滞に陥ります。
したがって、「残債務の履行の請求を受けた時から」とする部分が誤りだとわかります。
4:誤り
不確定期限がある場合、期限が到来した時点が履行期です(民法第412条第1項)。
債務者が期限の到来を知らない場合でも、履行期に履行しなければ履行遅滞責任を負うこととなり、請求の有無は問われません。
したがって、本肢は誤りです。