当サイトの一部にアフィリエイト広告を含みます。
Contents
関連投稿
「値付け」の葛藤と、その判断軸について
すべての業務には、対価があります。しかし、それに価格をつけるのは想像以上に難しい―。
行政書士として独立開業したばかりの頃、私は『価格』をつけることに強い不安を抱えていました。
これは高すぎるんじゃないかな…相場とずれていないかな…頼んでくれる人はいるのだろうか。
逆に安すぎて後で困るんじゃなかろうか…。
こんな風に何度も報酬額票を開いては閉じ、ひとり悩み続けたことを覚えています。
けれど、開業から数年が経ち、少しずつ見えて来たものがあります。
この記事では、私自身の経験をもとに報酬の決め方に迷ったときのヒントを、少しお伝えできたらと思います。開業を目指している方、今まさに料金設定に悩んでいる方の、ひとつの視点になれば幸いです。
開業当初、報酬に“自信”が持てなかった理由
開業当初、自分の仕事に自信が持てなかったわけではありません。でも、『○○円です』と口にした途端に、自分の存在そのものに値付けしているような気がして胸がざわつきました。
周囲を見ますと、”相場”という名の正解があちこちに転がっています。はじめこそ、それに合わせようとしたのですが、そうすればするほど『本当にこれでいいの?』という違和感が、心の奥にこびりついて離れませんでした。
『どなたでも手が届く価格をつけたい』というより、『この方のために私は何ができるか』を考え続け、いつしか”金額”ではなく、”対応”で報われるような錯覚に陥っていました。
そうしてある日、気づきます。
値付けに迷っているのは、それだけ相手と真剣に向き合おうとしているからだよなぁ。
いま私が報酬を決めるときに大切にしていること
報酬をどう決めるか―それは、自分の『時間』と『知識』について、どこまで責任をもって提供できるかを問う作業です。
開業から5年が経とうとしているいま、私は報酬を設定する際にいくつか基準を持つようになりました。
1.『時間』ではなく『責任』で考える
たとえば、30分で完結するご相談があったとして、相手に応えるためにどれだけの準備や知識の積み重ねがあったのか。それを『短時間だから』と安くするのは簡単ですが、自分の提供する価値を過小評価していることになります。
そのため私は、その業務にどれだけの責任が伴うかをベースに報酬額を決めるようにしています。
書類1通であっても、その書類が持つ意味や、その後に及ぼす影響まで理解し、必要に応じ関わっていかなければならないのなら『重い』といえます。
2.業務リスクと精神的負荷を含めて考える
行政書士がミスをした場合、損害賠償責任を負うこともあります。
たとえば、外国人の在留資格手続や、事業者の許認可に関する期限管理は、その申請が滞ることで、お客様の人生設計やビジネス全体が大きく狂ってしまうこともあるのです。
報酬は、それらのリスクを引受ける『覚悟料』でもある。このことを明確に意識するようにしています。
3.『役に立つ』と『安くする』は別のもの
私は相談者様にとって、必要な手続を必要な限り過不足なく把握したうえで、無理のない範囲でフィットさせるよう努めています。
しかしそれは、何でも値引きしたり、誰にでも寄り添うことではありません。
むしろ、相手にとって本当に必要かを共に考え、専門外の案件でしたらお話だけで相談料をいただかないこともあります。
この方針は今も続けていますし、これからも変えるつもりはありません。
ただ、あまりこの話は表に出していません。
なぜなら誤解を招き、期待だけ先行させてしまうのは本意ではありませんから。
報酬額で陥りがちな落とし穴
報酬額をどう決めるか。これは、数字だけの話にとどまりません。
そこには自信のなさ、不安感、世間の目、時には他人との比較などの事情が入り混じる複雑な問題ではないでしょうか。
だからこそ、多くの方が気づかぬうちに次のような落とし穴に足を踏み入れてしまっているように思います。
1.安ければ依頼が増えるという幻想
開業当初の私は、報酬を安くすることで相談件数が増えると考えていました。
実際、問い合わせ件数は想像以上でしたが、これらが信頼に繋がるかというと別問題でした。
安さを追求する方ほど、こちらの時間や事情に無頓着なことが多いです。
信頼より『損をしたくない』とする損失回避の思考が強い場合が多いため、必要な情報を開示してもらえなかったり、説明が不十分であるなど誤解を招きやすく、結果的に大きな不満やクレームにつながることがあります。
価格を下げますと、『自分を売る』というより、『身を削る』ことになることもありますので要注意です。
2.相場に合わせるのが正解―ではない
日本行政書士会連合会や、各都道府県に設置される単会が公表する報酬額表を参考にされる方も多いのではないでしょうか。
これ自体は悪いことではありません。
しかしながら、それらがそのままあなたの事務所の『在るべき姿』かといわれると、そうではありませんよね。
ご自身の得手不得手、対応方法、事務所の規模、かけられる時間―それらは誰ひとりとして同じではありません。
ですので、相場に合わせ『これでいいか』と決めず、ご自身が納得して受け取れる金額を丁寧に考えてほしいと思います。
3.無料相談は信頼の入口か、消耗の始まりか
『初回無料相談』を掲げる事業者が多いですが、ちょっとお待ちください。
無料であるがゆえに、”情報だけもらいたい”とお考えになる方も一定数いらっしゃいます。
中には、『無料相談でほしい情報だけ根掘り葉掘り聞き、あとは自分でやります』という方も。
もちろん、気負わず、フランクにお話してもらうことで築ける信頼関係もあります。
しかしそれは、無料であることよりもまず、”真摯であること”のほうが大切なのでは―そんな風に思います。
ですので私は、はじめから料金を提示させていただいています。そのうえで、専門外の内容でしたら料金は頂戴しません。
こういう部分にこそ、誠意を込めたいと考えています。
報酬額の公開・非公開、その判断と工夫
報酬額の公開設定は、意外と悩ましいテーマなのではないでしょうか。
私はいま、ある程度の目安として、当ページ内に料金表を掲載しています。
けれどそれは、『完全な確定金額』ではありません。なぜなら、必要な業務はお客様により全く異なるからです。
1.料金を公開するメリット
報酬額表を公開する1番のメリットは、閲覧者の不安軽減だと思います。
特に初めて行政書士に相談、または依頼するという方にとっては、『いくらかかるかわからない』ということ自体が大きなハードルではないでしょうか。
そのため、ある程度の指針を示すことである程度の心づもりを持っていただけますし、こちらとしましても、『後出し』による誤解を招くリスクを減らすことができます。
また、問い合わせ段階で料金に納得してくださっている方からのご依頼は、その後のやり取りも比較的スムーズな要に思います。
2.それでも公開しきれない理由
―とはいえ、すべての報酬額を明確化できるかといえば、そうではありません。たとえば、同じ業務であっても、
- 難易度
- お客様の準備状況
- 提出先への対応速度と癖
- 納期のご希望
などの条件により、背負うべき負担やリスクが大きく変動します。
ですので私は、敢えて『最低額+目安幅』をご提示しています。
3.見積もりは断っても大丈夫です
もうひとつ私が大切にしているのは、見積もりの強制力をなくすことです。
私はお見積をお渡しする際、
じっくりご検討ください。ご依頼は任意です。
ということをきちんとお伝えしています。
金額の提示は私なりの誠意ですが、選ぶ権利は常にお客様にあります。このスタンスがあるからこそ、互いに気持ちよくやり取りができるのだと考えています。
報酬に”自信”を持つこと
報酬を決める際、今でも迷いがないわけではありません。
お客様が置かれている状況や業務の負荷、社会の空気など、どれをとっても『正解』はありません。
報酬は、自分の覚悟につけた価格のようなものです。
かつての私は、
こんな価格で本当に依頼してくださる方はいるのかしら…。
高すぎると思われないだろうか。
と怯えていました。
しかし、報酬額で迷うのは誠実だからではないでしょうか。
そのうえでお伝えしたいのは、ご自身の仕事に責任を持つという意味で、堂々とご自身で決めれば良いということ。
価格はあなたの信念を写し出す鏡です。その鏡に映るあなたを、どうか信じてあげてくださいね。