
先日のGWやお盆、年末年始などの連休には、必ずといっていいほど自動車の渋滞情報が流れます。
「愛車離れ」と聞く事もありますが、まだまだ自動車も交通手段としては有用なんですね。
本記事では、自動車事故の被害に遭った場合。
しかも、相手が無保険だった場合の保険関係についてお話しします。
Contents
走行車両の5台に1台は…
恐ろしい事に、我々が普段目にする走行車両のうち、5台に1台は「任意保険」に加入していないといわれています。
2021年度自動車保険の概況/損害保険料率算出機構より
任意保険とは?
自動車を運転する場合、事故による損害への備えとして「自賠責保険」と「任意保険」の2種類があります。
このうち、任意保険は「自動車保険」と呼ばれるモノです。
任意保険はその名の通り、加入自体が任意です。
つまり、加入しなくても罰則がないので、一定の人は加入していないのです。
強制保険とは?
任意保険と対象なのが「自賠責保険≒強制保険」です。
こちらは自動車損害賠償保障法という法律によって、運転者には加入が義務づけられています。
未加入で公道を運転した場合、1年以下の懲役 または 50万円以下の罰金が科されるだけでなく、違反前歴がなかったとしても6点の減点となり、即免許停止処分となります。
この自賠責保険には、支払われる金額に上限が設けられています。
自賠責保険の上限額は?
自賠責保険は、事故により相手を死傷させてしまった場合の「対人賠償」規定しかありません。
具体的な内容は下記の通りです。
損害の範囲 | 支払限度額 | |
---|---|---|
傷害 | 治療関係、文書、 休業、慰謝料 | 最高120万円 |
後遺障害 | 逸失利益、慰謝料 | 神経・精神・胸腹部臓器に著しい障害を残し、要介護 常時介護:最高4000万円 随時介護:最高3000万円 後遺障害の程度により 第1級~第14級:最高3,000万円~75万円 |
死亡 | 葬儀、逸失利益、慰謝料 | 最高3,000万円まで |
傷害致死 | 傷害と同様 | 最高120万円 |
対人賠償において、1億円の賠償を命じられると、上記の賠償額では到底支払えません。
この部分を補填するのが任意保険です。
相手が無保険だった場合
事故の相手が無保険だった場合とは、任意保険無加入の場合。
または、自賠責・任意保険とも未加入の状態を指します。
「相手が無保険の場合」とは要するに、被害者が損害賠償を受けられないリスクを負う事です。
被害者が請求できる内容は?
交通事故の被害者は、下記の費目を損害賠償請求できます。
- 治療関係費
- 通院交通費
- 休業損害
- 逸失利益
- 物損関係費
- 葬儀費
- 慰謝料
治療関係費
事故による傷害に関する治療、入院、出術費用など
通院交通費
通院のためにかかる公共交通機関の費用
休業損害
治療・療養のために仕事を休んだ事で生じる減収部分
逸失利益
後遺障害 または 死亡により、本来なら得られたはずの将来収入の減収部分
物損関係費
事故により損傷した自動車の修理・代車費用など
葬儀費
死亡事故の際にかかる葬儀費
慰謝料
「入院・通院」「後遺障害」「死亡」等に際して請求できる慰謝料
無保険の場合、支払われない可能性大
通常、交通事故における損害賠償金は「保険金」として、加害者が加入する保険会社から被害者に支払われます。
しかし、加害者が無権の場合には、加害者側の自賠責保険から支払われる部分のみとなります。
ここで不足する部分はどうするのかというと、「加害者本人」に請求するしかありません。
本人と示談交渉へ
無保険の加害者の場合、「示談金」として交渉を進める事になります。
ほとんどの場合、交通事故の当事者は一般人同士。
右も左も分からない状況下での示談交渉で、被害者が適正な賠償額を受け取る事は”ほぼ困難”だといえます。
被害者が損をしないために
被害者が適正な賠償金を獲得するために考えられる方法は下記の通りです。
- 加害者本人へ 被害者自身が請求
- 交通事故紛争処理センターの利用
- 被害者自身の保険を利用
- 被害者から加害者側の自賠責保険会社へ請求
- 労災保険を適用
- 政府の補償事業を利用
加害者本人へ 被害者自身が請求
個人間のやり取りでは、連絡がつかなかったり、返事が来ないなどは日常茶飯事です。
こうした場合に考えられる手段が下記の通りです。
- 内容証明郵便の送付
- 公正証書形式での示談書作成
- 訴訟を起こす
内容証明郵便の送付
内容証明郵便を送付する事で、こちらの強い意思を示すものとして有効です。
時効中断の効果もありますので、相手が無視を決め込んでいる時などに活用します。
公正証書形式での示談書作成
示談が成立しても、金額が大きく分割払いにした場合などは「踏み倒し」が心配です。
そこで公正証書として「強制執行認諾条項」を定める事が考えられます。
こうする事で、加害者側の支払が滞った場合に必要な訴訟を起こす事なく、財産差押えが可能になります。
ただし、差押えには加害者の資産状況の把握が不可欠です。
訴訟を起こす
自身での示談交渉が困難な場合には、裁判所へ訴え出る事が考えられます。
こうなると、自分自身での解決は厳しいでしょう。
請求金額140万円までなら一部の司法書士でも取り扱えますが、更に高額な場合や、事案が複雑な場合には弁護士へ相談しましょう。
その他、交通事故を専門に取り扱う行政書士もいます。
いきなり弁護士へ相談する事に抵抗のある方は、交通事故専門の行政書士や法テラスなどをうまく活用しましょう。
ADR(交通事故紛争処理センター)の利用
被害者に賠償問題の法律知識がない場合や、示談交渉に不慣れな場合、示談をめぐる紛争を解決するための法律相談、和解あっせん、審査手続を少額で行ってくれるのが交通事故紛争処理センターです。
通常、裁判を起こすと長い時間と高い費用を支払う事になりますが、もっと簡易で迅速な解決を目指すのが「ADR制度」です。
ADRについて詳しく知りたい方は、下記記事をご覧下さい。
メリットとデメリットは下記の通りです。
ADRのメリット
- 申立費用が少額
- かかる期間が裁判より短い
- 専門的な知見が期待できる
ADR制度最大のメリットは、かかる費用が少額で短期間での解決が期待できる事です。
通常の裁判は、申立から判決まで1年以上を要する事も珍しくありませんが、当センターを利用すると3か月~半年程度で解決に至ることもあります。
また、多くの裁判官・弁護士は取扱う事件が広範囲で、交通事故に特化しているとは言い難いのが現状です。
しかし、当センターではあくまでも「交通事故紛争処理」が前提なので、専門的な知見が期待できます。
ADRのデメリット
- 依頼できるケースが限定的
- 遅延損害金は対象外
- 担当者が選べない
- 所在地が限定的
反対に、専門性が高いがゆえに依頼できないケースもあります。
また、裁判上の賠償金には法定利率による「遅延損害金」が適用されますが、和解や裁定による賠償金には適用されません。
裁判では自身の味方として顧問を務める弁護士も、ADRでは中立的な立場を守ります。このため、当事者一方に寄り添う提案はなく、途中で担当者を変更してもらう事もできません。
ただし、自分で弁護士に依頼して当センターへの申立てを行えば、代理人として手続を進めることも可能です。
被害者自身の保険を利用
加害者が無保険の場合、加害者自身に財産や支払能力がないと、被害者が賠償金を受け取ることはできません。
しかし、被害者自身が加入している保険会社に請求すれば、下記の保険から「保険金」を受け取る事は出来ます。
- 無保険車傷害保険
- 車両保険
- 人身傷害補償保険
- 搭乗者傷害保険
本題からずれますが、生命保険や共済に加入している場合は勿論、そちらから一定程度の支払を受ける事も考えられます。
無保険車傷害保険
加害者側が任意保険未加入の場合や、加入していても十分な支払が受けられない場合に備える保険です。
車両保険
通常は相手のいない1人事故などにおいて、ガードレールなどの公共物との接触、当て逃げなどに適用されますが、車同士の衝突事故でも適用される場合があります。
人身傷害補償保険
過失割合に関係なく受け取ることができる保険です。
搭乗者傷害保険
ドライバーだけでなく、当該車両に乗っていた全ての人が補償対象となる保険です。
不当な乗車方法でない限り、然るべき金額を受け取れます。
被害者から加害者側の自賠責保険会社へ請求
自賠責保険では、「被害者請求」(自動車損害賠償保障法の16条に定められている為、「16条請求」と呼ばれる事もあります。)ができます。
支払限度額は下記の通りです。
損害の範囲 | 支払限度額 | |
---|---|---|
傷害 | 治療関係、文書、 休業、慰謝料 | 最高120万円 |
後遺障害 | 逸失利益、慰謝料 | 神経・精神・胸腹部臓器に著しい障害を残し、要介護 常時介護:最高4000万円 随時介護:最高3000万円 後遺障害の程度により 第1級~第14級:最高3,000万円~75万円 |
死亡 | 葬儀、逸失利益、慰謝料 | 最高3,000万円まで |
傷害致死 | 傷害と同様 | 最高120万円 |
被害者請求には、「診断書」「保険金(共済金)」「交通事故証明書」等が必要になります。
交通事故証明書は、自動車安全運転センターへ申請する事で取得できます。
労災保険を適用
交通事故が労災事故に該当すれば、労災保険に対して保険金を請求できます。
ただし、自賠責保険と労災保険の併用はできないため、どちらか一方を選択する事になります。
受け取れる金額が高いのがどちらか、それぞれの支払基準を熟知していなくては算定が難しいため、交通事故専門の弁護士や、顧問社労士がいる場合には相談してみましょう。
政府の補償事業を利用
政府の補償事業は、加害者が自賠責保険にも未加入だった場合に利用できるものです。
ただし、補償の対象外となる場合や、補償内容は自賠責保険の支払基準に準ずるとされているため、十分な支払が受けられない場合がほとんどです。
政府の補償事業について/国土交通省HPより
まとめ
本記事では、保険未加入者との交通事故について見てきました。
- 自動車保険には「自賠責」「任意」の2つがある
- 未加入とは「任意」または「両方」の保険について未加入
- 無保険車との事故による損害には事故加入の保険への請求も検討する
- ADRや専門家への相談・依頼を検討する
自分がいくら気を付けていても、相手側から飛び込んでくる可能性があるのが交通事故です。
本記事が、加入している保険の内容、日々の交通ルール等の見直しのきっかけになれば幸いです。
この記事を書いたのは
ヲタク行政書士®榊原沙奈です。