
他人の著作物を使用する場合、原則として「著作権者」や「著作隣接権者」と呼ばれる人の”許諾”をもらう事が必要となります。
でも、著作物を見ただけでは権利者の氏名や住所など分かるはずもありませんよね。
本記事では、他人の著作物を使用する場合に必要な許諾の代わりとなる「裁定」制度を、ヲタク行政書士®榊原沙奈がわかりやすく解説します。
裁定制度って何?
著作物には色々なものがありますが、これら著作物には「著作権者」や「著作隣接権者」と呼ばれる権利者の存在があります。
著作権の権利内容についてはこちら。
対象となる著作物を利用するには、この権利者から許諾を得なければなりませんが、
- 権利者が特定できない
- わかるけど、どこにいるのかわからない
等の理由から許諾を得る事ができず、いつまで経っても利用できない事があります。
これを改善するため、権利者の許諾を受ける代わりに文化庁長官の「裁定」を受けて、通常の使用料額に相当する金額を補償金として供託する事で適法に利用できるのが裁定制度です。
対象は、相当期間にわたり公衆に提供されているもの
裁定の対象となるのは、下記のものです。
- 権利者若しくは権利者の許諾を得た者により公表されたもの
- 相当期間にわたって公衆に提供等されている事実が明らかなもの
- 著作権法第67条より
2は、権利者等によって公表されているかどうかはわからないものの、相当期間にわたり世間一般に流布(公開)されている著作物等の事を指していて、具体的には童謡等が該当します。
相当な努力を払っても著作権者と連絡がとれない場合
もう1つ、要件があります。
著作権者の不明その他の理由により相当な努力を払つてもその著作権者と連絡することができない場合として政令で定める場合
著作権法第67条より抜粋
「相当な努力を払っても著作権者と連絡がとれない場合」とは下記のものを指します。
- 広く権利者情報を掲載していると認められるものとして文化庁長官が定める刊行物その他の資料を閲覧すること。
- 著作権等管理事業者その他の広く権利者情報を保有していると認められる者として文化庁長官が定める者に対し照会すること。
- 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙への掲載その他これに準ずるものとして文化庁長官が定める方法により、公衆に対し広く権利者情報の提供を求めること。
- 著作権法施行令第7条の7より
権利者情報を掲載している資料の閲覧
- 名簿・名鑑等の閲覧
- Web検索
広く権利者情報を保有していると認められる者への照会
令和4年7月1日現在で全27の事業者が登録されており、こちらから確認できます。
特に有名なのは、JASRAC(一般社団法人 日本音楽著作権協会)ですが、言語や写真などの美術、実演等に特化した団体もあります。
公衆に対する権利者情報の提供の呼びかけ
- 日刊新聞紙への広告
- CRIC(公益社団法人著作権情報センター)等へのWeb広告
裁定手続の流れ
- 事前準備
- Web検索、著作権団体等への照会
- 文化庁へ裁定の仮申請+著作権情報センター(CRIC)への広告掲載
- 文化庁長官へ裁定の正式申請
- 文化審議会への諮問・答申
- 文化庁長官が裁定の可否・補償金額を決定
- 供託所に補償金を供託
- 利用開始
1.事前準備
事前準備として、文化庁への事前相談があります。
これは、必ず受けなくてはならないものではありませんが、申請書類や添付書類に不備があったり、裁定申請の前提条件である「相当な努力」が行われていない場合には裁定が受けられない事もありますので、手続の円滑化をはかるためにも事前相談を勧められています。
裁定を受けようとする著作物等について、過去に裁定がなされているかどうかで「相当な努力」の内容が異なります。
過去に受けた実績があれば緩和されますので、「著作権者不明等の場合の裁定実績オンライン検索データベース」を確認しましょう。
2.Web検索、著作権団体等への照会
著作物等のタイトル、名前、内容をキーワードとして、少なくとも1種類以上のWeb上の検索サービスを使って検索しましょう。
また、利用したい著作物等の分野に係る著作権等管理事業者へ、対象の著作物等の管理をしているかどうか確認をします。
音楽ならJASRAC(一般社団法人 日本音楽著作権協会)、言語なら公益社団法人 日本文藝家協会、映画やテレビは一般社団法人 日本テレビジョン放送著作権協会という具合です。
著作権管理事業者一覧はこちらから確認できます。
3.文化庁へ裁定の仮申請+著作権情報センター(CRIC)への広告掲載
文化庁長官へする裁定の仮申請は、申請書を文化庁宛にメールで送信して行います。
広告掲載については下記の通りです。
- 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙
- 公益社団法人 著作権情報センター(CRIC)
いずれかに権利者情報の提供を求める広告を7日以上掲載する必要があります。
掲載料は1件7,500円+税です。
4.文化庁長官へ裁定の正式申請
申請書には下記の項目を記載します。
- 著作物の題号
- 著作者名
- 著作物の種類 及び 内容 又は 体様
- 著作物の利用方法
- 補償金の額の算定の基礎となるべき事項
- 著作権者と連絡することができない理由
- 著作権法第67条第2項の該当の有無
- 著作権法第67条の2第1項の規定による著作物の利用の有無
「8.著作権法第67条の2第1項の規定による著作物の利用」とは、文化庁長官の裁定が出る前から申請中利用をしたい場合にあたります。
急ぎ使用したい場合には、この制度の利用も検討しましょう。
申請中利用の場合:担保金の供託
申請中利用を行う場合、その利用前に担保金を供託しなければなりません。
金額は、申請書に記載した「著作物等の利用方法」や「保証金の額の算定の基礎となるべき事項」等を勘案し、文化庁長官が決定します。
金額決定後、文化庁から申請者へメールにて通知がありますので、最寄りの供託所にて供託します。
供託後は速やかに「供託所の写し」を文化庁担当者に送付し、供託が完了したことを報告してください。
※供託はオンラインでも手続が可能です。詳細はこちらをご覧下さい。
5.文化審議会への諮問・答申
法定要件を満たす場合、文化庁長官は裁定処分を行いますが、下記の事由に該当すれば裁定をしない処分を行う事となります。
- 裁定の可否が決まる前に権利者と連絡がとれたとき
- 著作者が、著作物の利用を廃絶しようとしているのが明らかなとき
- 申請の形式や内容が法令要件に適合しないとき
- 申請中 利用者から申請を取り下げる申し出があったとき
申請から裁定を受けるまでの期間は約2ヶ月
申請者が仮申請書等を文化庁に提出し、裁定の可否の決定を受けるまでの期間は約2ヶ月とされています。
これはあくまでも目安に過ぎず、申請書や添付書類に不備がある場合や、習性が必要な場合、他にも申請が重なってしまっている等の理由により2ヶ月を過ぎる事もありますので、早めの利用を考えている場合には、申請中利用をお考え下さい。
6.文化庁長官が裁定の可否・補償金額を決定
文化庁長官は、裁定の可否について文化審議会に諮問して補償金の額を決定し、裁定の可否と併せて通知します。
補償金の額は、申請のあった著作物等を利用する場合の一般的な利用料金等を参考に決定する事になります。
7.供託所に補償金を供託
申請中利用を行わなかった場合、裁定を受けてから最寄りの供託所に供託します。
申請中利用を行っている場合、供託した担保金の額と通知された補償金の額を比較し、同額ならば手続は不要です。
補償金が担保金額を上回れば、その差額を追加して供託します。
反対に、担保金額が補償金の額を上回った場合、その差額を取り戻すために「供託物払渡請求書」を記入し、供託所に提出することになります。
その際に「取戻しをする権利を有することを証する書面」として、下記のものが必要です。
- 裁定の告示をした官報のコピー
- 補償金の額の通知書
8.利用開始
供託すべき補償金を最寄りの供託所にて供託し、完了すれば著作物等を利用することができます。
注意事項あれこれ
権利者が外国人の場合でも裁定を受けられるのか?
可能です。
ただし、権利者が海外在住のために連絡がとりにくいとか、権利者との交渉に手間がかかることは「権利者と連絡をとることができない場合」とはなりませんので、注意が必要です。
ちなみに、日本の裁定制度は日本国内で行われる行為についてのみ有効なので、日本の著作物を海外利用する場合には現地の法律に従う必要があります。
裁定申請までの準備は?
- 権利者情報を収集
- 権利者情報に基づき、権利者と連絡をとるための措置をとる
ざっくり見るとこの2点が必要です。
裁定申請にあたって、利用する数量・年数に上限はあるか?
ありません。
補償額を算出するために使用料を提示する必要はありますが、申請できる数量や期間についての上限値は定められていません。
最初に申請し、裁定を受けた年数を超えて使用したい場合、改めて裁定申請の必要があります。
ただし、当初から期間延長の可能性がある場合には、それも踏まえて裁定を受ける事はできます。この場合には再度裁定を受ける必要はありません。
裁定にかかる費用は?
手数料・広告掲載料で約15,000円、補償金(担保金)がかかります。補償金は著作物や利用方法により異なります。
著作権者不明等の場合の「裁定補償金額シミュレーションシステム」にて、裁定制度の利用に必要な補償金額の目安が算出できますので、興味のある方はこちらをご覧下さい。
この記事を書いた人は
ヲタク行政書士®榊原沙奈です。
知的財産の重要性はこれから益々あがってくる事が予想されます。
当所では、代表のぼくが「ヲタク行政書士®」にて商標登録をしていたり、著作権相談員として登録済みですので、知的財産に係るご相談も承れます。
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