
ご自身や家族の死後を心配する方から「遺言」についての相談を承る事があります。
本記事では、法務局の提供する「自筆証書保管制度」をわかりやすく解説します。
Contents
公正証書遺言とは?
その前に、公正証書遺言についてご説明します。
遺言は大きく分けて2種類
遺言書には大きく分けて2つの種類があります。
- 自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)
- 公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)
一般的に指す遺言は「自筆証書遺言」で、亡くなった人が自分の手で財産の分配方法や割合を指定する内容を書き記したものをいいます。
いっぽう、公正証書遺言は遺言者本人が作成するのではなく、「公証人」という第三者が作成します。
作成には当然、遺言者本人の意志が必要不可欠ですから、内容は本人が指定しますが、それを法的に有効とするために公証人がアドバイスしたり、添削しながら作成していくものになります。
検認が必要な場合がある
遺言者が亡くなった際、自宅で見つけた遺言書が自筆証書ならば家庭裁判所に「検認」の申立をしなければなりません。
これは、残された遺言書が本当に遺言者が書いたものか、一部の相続人のみが勝手に開封し、自分に都合良く変造したりしていないか?との嫌疑を避けるための手続なので、公証人が作成する公正証書遺言の場合には検認が不要となります。
そして、もう1つ検認不要な制度があります。
自筆証書保管制度とは?
法務局において、自筆証書遺言を保管する制度が始まりました。
保管してくれるのは自筆証書遺言に限られていて、ここで保管してもらう自筆証書遺言は家庭裁判所の検認手続が必要ありません。
遺言書の保管先は?
保管したい遺言書は、遺言者の住所地、本籍地、所有する不動産の所在地を管轄する法務局のいずれかに預ける事になります。
申請に必要な書類は?
- 遺言書
- 申請書
- 手数料(3,900円分の収入印紙)
- 印鑑(認印でも○)
- 遺言者の住民票 または 戸籍謄本 及び 戸籍の附票
- 本人確認書類
3の手数料は変更される事もあるかもしれませんので、事前に確認しましょう。
種類 | 手数料 |
---|---|
遺言書の保管申請 | 3,900円 |
遺言書の閲覧請求(原本) | 1,700円 |
遺言書の閲覧請求(モニター) | 1,400円 |
遺言書情報証明書の交付請求 | 1,400円 |
遺言書保管事実証明書の交付請求 | 800円 |
申請書、撤回書の閲覧請求 | 1,700円 |
また、5の書類は「住民票」は1つで足りますが、「戸籍謄本」を用意する場合には「附票」もセットで提出しなくてはならない点に注意が必要です。
保管されるのは
法務局に保管されるのは遺言書の原本のみではなく、画像や情報をデータ化したものも含まれます。
具体的には下記の通りです。
- 画像
- 作成年月日
- 遺言者の氏名、生年月日、住所、本籍地
- 受遺者
- 遺言執行者
- 遺言保管開始年月日
- 遺言保管所の名称 及び 保管番号
保管の期間は、遺言者の死亡日から50年間。
データの保管期間は死亡日から150年とされています。
また、遺言者の生死不明となった場合には、遺言者出生日から120年経過日から50年後までの保管となります。
申請手続の流れ
大まかな流れは下記の通りです。
- 自筆証書遺言作成
- 申請書作成
- 遺言保管所へ予約
- 保管申請
- 保管証受取り
1つずつ見ていきましょう。
1.自筆証書遺言作成
原則は遺言者本人の「手書き」で、作成年月日、氏名、押印(認印でも○)をしたものです。
詳細な要件は「4.保管申請」にて説明します。
添付する財産目録は、預金通帳のコピーや不動産登記簿、その他パソコンで作成・プリントしたものでも構いませんが、目録全てのページに署名押印が必要です。
2.申請書作成
「遺言書の保管申請書」を法務局またはHPよりDLして作成します。
記入が必要な項目は下記の通りです。
- 申請年月日
- 提出する年月日です
- 遺言書保管所の名称
- 遺言書の作成年月日
- 遺言書に記載した年月日です
- 遺言者の氏名、出生年月日、住所、本籍及び筆頭者の氏名
- 遺言者の国籍(国又は地域)
- 遺言者の電話番号
- 申請書のページ数
- 不動産の所在地
- 民法第968条の自筆証書遺言に係る遺言書
- 遺言者本人が自署して作成した遺言書であるかどうかを確認して☑します
- 他の遺言書が保管されている場合
- 遺言者の署名又は記名押印
- 備考欄
- 遺言書の総ページ数
- 受遺者等又は遺言執行者等の番号
- 受遺者等又は遺言執行者等の別
- 受遺者等又は遺言執行者等の氏名及び住所
- 受遺者等又は遺言執行者等の出生年月日又は会社法人等番号
- 同意を要する事項
- 死亡時の通知を希望する場合、遺言者の氏名等を戸籍担当部局に提供し、死亡の事実を取得することに同意するのなら☑をします
- 受遺者等又は遺言執行者等を通知対象に指定する場合
- 推定相続人を通知対象者に指定する場合
- 遺言書保管所の名称
- 申請人の表示
- 納付金額
- 印紙貼付欄
- 3,900円分の収入印紙を貼ります
- 担当者使用欄
それなりに量はありますが、自筆証書遺言の作成に沿った制度です。
きちんと登録しておきましょう。
3.遺言保管所へ予約
Web、電話、窓口のうちから予約方法を選んで予約しましょう。
4.保管申請
保管できる遺言書は下記の通りです。
- A4サイズ
- 遺言書全文の自署
- ボールペンなど容易に消えない筆記具を使います
- 複数枚に渡る場合にはページ番号を記載
- 両面に記載していない
- ホッチキス止めはしない
- 封筒は不要です
- 封をしない
- 余白を上5mm以上、下10mm以上、左右20mm以上設けること
- 縦横、書き方はどちらでも構わない
この遺言書と共に、申請書、身分証明書や住民票(戸籍謄本+附票でも○)を添付して申請します。
5.保管証受取り
手続が終了すると、遺言者の氏名、出生年月日、遺言書保管所の名称と保管番号の記載された「保証書」を受け取ります。
自筆証書遺言作成の注意点
自筆証書の作成時、よくある注意点をまとめました。
遺言書の内容を変更・追加する場合
変更する場合、最初の記載に二重線をして押印をします。
それに加え、適宜の場所に「変更場所の指示」「変更した旨」「署名」を記載します。
推定相続人以外に財産を渡す場合
相手は相続人ではないので、「相続する」ではなく「遺贈する」と記載します。
預けた遺言書を見たい
遺言者は、預けた遺言書の内容を確認したいときには保管所へ「閲覧請求」をします。
※遺言者が生きている間、閲覧請求ができるのは遺言書作成の本人のみです。
- モニターか原本か、閲覧方法を決める
- 閲覧請求する保管所を決める
- 閲覧請求書の作成
- 閲覧請求を予約
- 保管所へ行き、閲覧請求
- 遺言書の閲覧
1.モニターか原本か、閲覧方法を決める
閲覧には、遺言書原本を見る方法と、モニターにより画像を見る方法の2つがあります。
原本の場合は、原本を保管している場所でしか閲覧できませんが、モニターならば全国どちらの異ギオン書保管所でも閲覧できます。
また、閲覧方法により手数料も変わります。
2.閲覧請求する保管所を決める
モニター閲覧は全国全ての遺言書保管所での閲覧が可能です。
3.閲覧請求書の作成
閲覧請求書の様式はこちらからダウンロードできます。
法務局の窓口でも入手できますので、お近くに法務局がある方はそちらもご利用下さい。
4.閲覧請求を予約
予約方法はこちらから確認できます。
5.保管所へ行き、閲覧請求
予約した日時に遺言者本人が保管所へ行きます。
- 閲覧請求書
- 顔写真付きの身分証明書
- 官公署から発行された身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード等)
- 有効期限のある身分証明書は、期限内でなくてはなりません
- 手数料
- モニター閲覧:1,400円
- 原本閲覧 :1,700円
- これらは収入印紙で納付しますが、法務局で購入する事ができます。
6.遺言書の閲覧
保管を辞めたい
預けている遺言書の保管を辞めたい場合、遺言書の保管申請の撤回をする事で返還を受けられます。
内容の変更をお考えの場合も撤回し、変更後に再度預けることを推奨されています。
- 撤回する遺言書保管所を確認
- 撤回書を作成
- 予約
- 撤回手続
- 返還
1.撤回する遺言書保管所を確認
原本を保管している保管所でしか撤回はできません。
2.撤回書を作成
撤回所の様式はこちらからダウンロードできます。
3.予約
予約についてはこちら。
4.撤回手続
手続に必要なものは下記の通りです。
- 撤回書
- 顔写真付きの身分証明書
- 官公署が発行する身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード等)
- 保管申請時以降、氏名や住所等に変更があったものの、変更の届出を行っていない場合にはこれを証する書面
手数料はかかりません。
5.返還
住所や氏名に変更があった場合
氏名・出生年月日・住所・本籍(または国籍)・筆頭者や、遺言書に記載した受遺者や遺言執行者等の氏名又は名称、住所等に変更があった場合には、変更の届出が必要です。
- 保管所を確認
- 届出書作成
- 予約
- 変更の届出
- 住民票の写し、戸籍謄本等、変更事項を証する書面
- 届出人の住民票の写し又は運転免許証、マイナンバーカード等の身分証明書のコピー
- 法定代理人が変更の届出を行う場合、その身分証明書
変更の届出は郵送でも可能で、その場合には3.予約は不要です。また、手数料もかかりません。
死後の閲覧申請
遺言者の死後、相続人ができるのは下記の通りです。
- 遺言書保管事実証明書の交付請求
- 遺言書上方証明書の交付請求
- 遺言書の閲覧請求
1.遺言書保管事実証明書の交付請求
手続が出来るのは、以下の方々です。
- 相続人、受遺者等、遺言執行者等
- 1の親権者や成年後見人等の法定代理人
この証明書は、遺言書保管所に特定の遺言者の遺言書が「保管されているかどうか」を確認するものです。
手数料は証明書1通につき、800円です。
2.遺言書情報証明書の交付請求
画像で保管されている遺言書情報すべてを印刷して確認します。
遺言書保管所に保管する遺言者は、遺言者本人からの撤回手続に伴う返還以外で返してもらう事はできないので、各種手続はこの証明書を遺言書原本の代わりとして使用する事になります。
手数料は1通1,400円です。
相続人のうち1人でもこの証明書の交付を受けた場合、保管官はその他の相続人全員に「遺言書を保管している事実」を通知します。
3.遺言書の閲覧請求
モニター閲覧:1,400円
原本閲覧 :1,700円
通知が届きます
遺言書保管制度の目的は、遺言者の死亡後、相続人や受遺者、遺言執行者等の関係相続人に閲覧や遺言書情報証明書を取得してもらうことで、遺言書の内容を知ってもらう事にあります。
そのため、「関係遺言書保管通知」または「遺言者が指定した方への通知」といういずれかの方法で通知が届きます。
通知の内容は
- 遺言者氏名
- 遺言者の出生年月日
- 遺言書を保管している遺言書保管所の名称
- 保管番号
通知を受け取ったらどうするの?
通知だけでは遺言書の内容までわからないため、最寄りの遺言書保管所にて内容を確認するための請求をしましょう。
公正証書と自筆証書、どっちがいいの?
遺言のご相談を受けた際、最初におすすめするのは公正証書遺言です。
というのも、公正証書はご自身だけでなく、裁判官や弁護士を経験された公証人が法的な有効性を確認してくれるものだからです。
遺言書を作ろうかとお考えになる方のほとんどは、ご自身や家族の死後を心配されています。
これらに備えるのであれば、やはり万全の体制をとりたいものです。
しかし、厳格な手続ゆえに用意する書類や手間、費用がかかります。
その上、変更するのも少々面倒が伴います。
これに対し、自筆証書は自宅にあるものだけで作成ができ、変更も簡単。
思い立ったらすぐに作成ができる事、他人の目に触れない事など、メリットが多いのも事実です。
そして、本記事で紹介した自筆証書保管制度は、公正証書と自筆証書制度のちょうど中間に位置するものだとぼくは考えています。
どの制度もそれぞれに長所・短所がございますので、比較した上で検討しましょう。
この記事を書いた人は
ヲタク行政書士®榊原沙奈です。
去年から「信託」の勉強を始めました。
相続は民法という法律に沿った制度ですが、信託は信託法という法律に沿ったもので、両者は全く異なります。
興味のある方はお気軽にお尋ねくださいね。