
ここのところの陽気に、冬物の在庫処分セールを見かけるようになりました。
買い手として見れば、欲しかった物がお値打ちに手に入るチャンスに胸が高鳴る事もあるでしょう。
しかし、売り手からすると「少しでも損失を減らしたい」との一心で出た最終手段です。
今回は、自分の商品を値引きしない事をおすすめする理由をお話していきます。
値引きはしない
当事務所では、値引き交渉には一切応じません。相談料も有料です。
多くの事務所が「初回相談無料」を実施する中、有料にするだけで不利だと考える方もいるでしょう。実際に有料と聞いた途端、断られるケースもあります。
「値引き」や「セール」は、定価額より安くするという意味があります。
定価という目印(アンカー)が基準となり、少しの値下げでも「自分にとって有利に運んだ」と嬉しくなる。結果的に財布の紐が緩む事を、マーケティングでは「アンカリング効果」と呼びます。そう、戦略です。
ただ、全ての企業がこの効果を狙って定価を決定しているわけではなく、やむを得ない値下げも多々あります。
今回はこの「やむを得ない値下げ≓売るための値下げ」を推奨しない理由をお伝えします。
- 定価で買ってもらえなくなる
- 定価で買った顧客離れ
- セール前提での価格設定になる
- 価格重視の顧客には届かない
もちろん、値下げも立派な販売促進活動である事に変わりはないので、値下げそのものを否定するつもりは全くありません。
けれど、商品を売る以上1度はご検討いただきたいとの意図をもち、今回は進めていきます。
値引きをおすすめしない理由
定価で買ってもらえなくなる
顧客が値引き交渉をする場合は大きく分けて2種類です。
- 資金不足だがそれが欲しい
- 資金はあるが安くしてくれるなら欲しい
前者なら、価格交渉の余地はあるかもしれません。
事実、当事務所を訪れるお客様が全員お金持ちというわけではないので、業務の細分化や納期の延期等で対応することもあります。ただこの場合、分割できない商品を販売している場合には対応できませんよね。
しかし、後者の場合はどうでしょう。
「安くしてくれるなら」という前提ありき、むしろ、こちらが購入の動機となっている事もあります。
万が一、値引き交渉に応じて売れば「あそこは値引きしてくれた」と自慢げに吹聴し、それを聞いた客ばかりが集まってくる…なんてバッドエンドもあり得ます。
このように、1度でも値引きをすれば「安くなるまで待つ」とか「安くしてくれない事がおかしい」との思考を招き、定価で売れなくなります。
”時価”で買った顧客離れ
値引きの前には必ず「定価」があります。
定価で購入した顧客が値下げ価格を目撃した場合、または、値引きされたものを買った顧客が定価で売られる同商品を見た時にどう感じるでしょう。
「損をした」または「損をする」です。
購入当時、その品質・価格で納得して購入したはずですが、人間はナマモノ。
後から安くなったり高くなれば、過去の自分の行動を振り返り、「損をした」または「得をした」と考えます。
「損をした」「得をした」と感じた顧客は今後、値下げされるのを待つようになります。
こうして、定価を決めた時に妥当だった価格を自ら壊してしまうのも値下げの良くない効果です。
セール前提での価格設定になる
通常時に売れなかった商品でも、値引いた途端に客足が増え、たくさんの商品が売れると事業主も嬉しいでしょう。
目に見える売上は増え、在庫は減る。良い事づくしに見えます。
けれど、次にその商品を出す時につけるのは定価ですよね。最初から値引き価格で出すわけにはいきません。なぜなら、定価は自社の利益を含めた数字を設定しているからです。
それでもやはり、値引きをすればお店は繁盛。目の前の事で忙しくなるため、細かい事はもういいかという気持ちになるかもしれません。
お客様がたくさん来る、たくさん売れる。
これを正解だと錯覚した時が、薄利多売地獄へのスタートです。
一応、定価で売ってはみるけど、値引きしないと売れないという現実に当った時、値引き前提で価格設定をしなくてはならなくなります。そうすると、顧客はますます定価で買いません。
こうなる前に、値引き以外の販売戦略を練りましょう。
価格重視の顧客には届かない
値引きで引いているのは何でしょう。答えは「利益」です。
定価は、自社の利益まで含めて設定している数字だと書きました。
例えば、仕入が50円、売価が100円の商品があったとします。単純に見ればあなたの儲けは50円ですが、果たして本当にそうでしょうか?
違いますよね。
スタッフを雇えば人件費、店舗を構えればテナント料や光熱費、配達や決済サービスなどのシステム利用費などなど、これらをペイしなくては運営は儘なりません。
値引きをして利益を削っても、第三者が絡むコストはなかなか削れません。
安易に削れるのはあなた自身の利益であり、言い換えると「あなたの価値」を削ります。
けれど、末端顧客がここまで理解できるでしょうか。ほとんどの顧客には届きません。
プライスカードに表記された価格のみで購買を決める顧客が、品質に目を向ける事は稀です。
その稀少なタイミングが訪れるまで、あなたは自分の価値を削りながら品質保持に努めなければなりません。
あなたが提供する商品。それは、あなたの価値を削らないと本当に売れない商品ですか?
経営者には優しい人も多いですが、自己犠牲の上に成り立つ優しさでは誰も幸せにはなりません。
まとめ
商品開発時には「顧客のためになるように」と考えているはずです。
この品質を保持しながら、いかに安く顧客の元へ届けるかを考えるのが経営者の務めですが、目的が1つでも狂えば事業は簡単に傾きます。
本記事が日常的に値引きをしている方にもう1度、自分の目的と戦略についてご検討いただけるきっかけになれば幸いです。
- 定価で買ってもらえなくなる
- 定価で買った顧客離れ
- セール前提での価格設定になる
- 価格重視の顧客しか寄りつかない
この記事を書いたのは
ヲタク行政書士®榊原沙奈です。