
本記事では、デジタル遺品とは何か?について解説、生前整理と遺し方についてご提案します。
Contents
デジタル遺品とは?
デジタル遺品とは、パソコンやスマホなどの端末そのものをはじめ、端末内に保存された画像や音楽ファイル、ネットバンキングやサブスクサービスなどのアカウントデータ等を指します。
無形なので見落としがちで、法律上も整備されていないジャンルだといえます。
このため、生前に備えられないまま亡くなり、相続手続でトラブルが起こるまで気づかない事も多いのが現状です。
故人のスマホはどうすればいいの?
相続相談で頻出なのが「スマホはどうすればいいの?」という質問です。
パソコンやスマホ、タブレット等の本体は有形物ですので、その所有権は相続人へと引き継がれます。
しかし、PINコードがわからなかったり、上限までパスワードを間違えてしまえば、内蔵データは永遠に確認できなくなります。
よくあるトラブル
デジタル遺品に係るトラブルとして、下記のものがあります。
- サブスクの解約ができない
- 永遠にロックが解除できない
- 情報漏えい
- 黒歴史流出
サブスクの解約ができない
音楽、電子書籍、ゲームなど、自動引落し設定をしている有料サービスは、支払が滞ったからといって自動で契約解除になるものばかりではありません。
きちんとした手順を踏まない限り「滞納」とみなされ、知らぬ間に債務が膨らむ可能性があります。
解約時に必要なのは、「アカウント情報」と「二段階認証に用いる電話番号」であるのが一般的です。
二段階認証は、本当に本人が解約手続を行っているのかを確認するもので、SMSや登録済みのメールアドレス宛てに一次的に生成されたパスワードを送信する事で行います。
死亡直後に焦ってスマホを解約する人がものすごく多いのですが、全てのサービスを確認し、解約が完了するまでは待って下さい。
キャッシュレス決済の残高は相続対象になるかも?
キャッシュレス決済の残高、各企業が提供しているポイントサービスは、ほとんどが相続対象外です。
しかし、一部は相続対象になります。
なるの?ならないの?どっちなの!?とまどろっこしい書き方をしていますが、提供する側の都合で違うのが現状なのです。
相続対象になるかならないかの確認は、各サービスの「利用規約」にて行えます。
「第三者への名義変更はできない」
「第三者に販売、借用、リース、配信、放送、サプライセンス、ないしは別の方法で譲渡してはならない」
など、小難しい記載がされているのが一般的で、法律上「一身専属権(いっしんせんぞくけん)」と呼びます。
一身とは契約者本人の事で「本人だけにあげた権利だから、譲渡・相続はらめぇぇぇ!!!(だめ)」という規定です。
永遠にロックが解除できない
スマホのロック画面において、ロック解除のために顔、指紋、パターン、パスコードなどによる認証をさせるのが一般的です。
本人しか知り得ないのが当然なので、他人が1回で解除するのは至難の業だと言えます。
ここで複数回誤ると、中のデータを全て抹消する端末もあります。
「携帯ショップ等に持ち込めば何とかなる!!!」とお考えの人もいるようですが、なりません。
「じゃあ、SIMカードを入れ替えればいいじゃない!」と閃く人もいるのですが(ぼくです)、アプリ内で機種変更前の手続を行わなければ、内容を引継げないものが多数存在します。
情報漏えい
無事に端末のロックを突破した相続人が、必ずしも善良とは限りません。
遠縁や、生前に面識のなかった相手が相続した場合、保存された個人データを悪用される恐れがあります。
また、ロックを解除できないからとそのまま破棄してしまうと、何の関係もない第三者に悪用される可能性もあります。
スマホやパソコンなどのデバイスには、写真・動画だけでなく、故人のクレジットカード番号や銀行口座情報、社外秘の資料などのデータが記録されているのが一般的です。
破棄する場合は然るべきところへ持ち込んで下さい。
黒歴史流出
人は誰しも秘密を抱えています。
が、死人に口なし。死後に秘密のデータを見られた場合、止める術はありません。
趣味嗜好についての恥辱ならばまだしも、他人まで巻き込むような黒歴史を封印している場合、それが解かれない工夫を、生前からこらしておく必要があります。
生前整理をしましょう
2019年の世帯別、情報通信機器の普及率を見ると、モバイル端末全体の保有率は96.1%でした。
スマホは67.6%ですが、10人中6~7人はスマホを、その他はガラケーやPHSを保有している事になります。

となると、デジタル遺品への備えは万全にしておかねばならないでしょう。
ロック解除に用いるパスワードは、大変心強い機能なので、生存中は必要不可欠です。
が、遺族にとっては最低最悪の悪役に早変わりします。
終活では「いつ訪れるか分からない死期」が高く、厚く立ちはだかるんですよね。
必要最低限はどこなの?
これらを踏まえ、必要最低限の備えをご提案します。
「必要最低限ってどこなの?」と突っ込まれた人もいるでしょう。
ぼくも同じ気持ちです。
ここでの必要最低限とは、明日死んでも大丈夫な状態を指します。
契約サービスや口座情報は一覧に
自身の経歴に一辺の曇りもなく、黒歴史の心配がない方は、パスワードを遺言書等に記載しましょう。
あとは、自分の死後に遺言書を発見してもらうだけです。
1つでも黒歴史や見られたくないモノがある場合、契約サービスと口座情報を一覧化しましょう。
ここにスマホの解除コード等を残す必要はありません。
相続に必要な遺産分割の対象になるのは「ネット銀行」「ネット証券」等です。
これらは紙媒体の通帳等がないため、Web上でログインして確認する必要がありますので、ログインするのに必要な情報量を書き留めて下さい。
使用頻度が低い口座は、早めに解約しておくのもオススメです。
次に、サブスク等の解約に必要な「アカウント情報」を残します。
解約手続の際、二段階認証にSMSやメールアドレスを使用するとご案内しましたが、アカウント情報がはっきりしていれば、相続人からカスタマーセンターへ連絡して指示を仰ぐ事ができます。
ネットやサブスクサービスの最大の問題は「特定できない事」なのです。
日常的な断捨離を
定期または不定期で構いませんので、不要なデータは消しておきましょう。
反対に、自分以外の目に触れさせたくないデータは、鍵付のフォルダで管理することも考えられます。
承継したいもの、したくないものは明確化し、適した保存方法を心がけるといいでしょう。
写真や動画などメディアの管理に、クラウドサービスを活用している方もいますが、相続人が自分のアカウントにログインできるとは限りません。
特定の人へ承継したいデータがあるのなら、後述するGoogle、Apple等が提供するサービスの利用を検討しましょう。
承継サービスの利用
※本記事ではGoogleの提供サービスのみご紹介しますが、Appleや別のアプリ等でも承継サービスがリリースされています。ご自身に合うモノを見つけてみて下さいね。
Googleの提供する「アカウント無効化管理ツール」は、3~18か月の期間と承継させたい相手を指定して、期間中にGoogleサービスの利用がないと自動で発動します。
つまり、無効化されます。
承継できるデータは下記の通りです。
- Blogger
- 連絡先とサークル
- ドライブ
- Gmail
- Google+プロフィール/ページ
- ストリーム
これらのデータは承継できますが、アカウントそのものは引き継ぐ事ができません。
2つのプロセス
第1段階では、本人に確認用のSMS、メールが複数回送信されます。ここで沈黙を貫くと、第2段階へ移行します。
↓
第2段階では、設定したアカウントとデータの自動削除と同時に、クラウド上に保管されているファイルの自動継承プロセスに入ります。
データのアクセスを許可したユーザは、ダウンロードの有効期間として3か月の猶予がありますが、これを過ぎると削除されます。
以上です。
参照:アカウント無効化管理ツールについて/Googleアカウントヘルプ
SNSはどうするの?
現代人にとっての日常である「SNS問題」もあります。
亡くなった人のアカウントを削除するには、アカウント情報が必要です。
自分の死後、アカウントの削除を希望する場合には、遺言等にログインに必要な情報を残しておきましょう。
下記に遺族が取り得る手段を紹介します。
Instagram・Facebook
運営団体が同じInstagram、Facebookは、「削除」または「追悼アカウントへの移行」が選べます。
故人のFacebookアカウント手続についてはこちら。
Instagramアカウント手続についてはこちら。
完全に削除する場合、追悼アカウントへ移行する場合ともに、下記の書類が必要です。
- 死亡診断書 又は 死亡を証明する書類
- 申請者が近親者であることの証明書
- 故人 又は 遺産管理に関し正当な代理権を有することを証明する書類
これらを添付して該当するリクエストを送信します。
注意点として、追悼アカウントに移行すると、誰であってもログインできなくなります。
検索結果としてアカウントが表示されることはなくなりますが、既存の投稿や情報を閲覧することは可能です。
令和5年5月現在、Twitterに「追悼アカウントへの移行」に類似するサービスはないので、死亡を知らせると削除されるのが一般的なようです。
故人のTwitterアカウントについての手続はこちら。
削除のリクエストに際し、下記の書類が必要です。
- リクエストを送信する人の身分証明書のコピー
- 個人情報 又は 死亡診断書のコピー
LINE
LINEの使用権は、一身専属権とされています。
そのため、遺族が連絡すると「削除」以外の対応はされません。
故人のLINEアカウントの手続についてはこちら。
TikTok
令和5年5月現在、TikTokさんに該当するページは見当たりませんでした。
ただ、削除に必要なのはアカウントデータのみのようなので、自分の死後、削除して欲しい場合にはログインに必要な情報を残しておきましょう。
いずれにしろ、遺族 または 遺産管理人が手続をしなくては放置の状態となりますので、不正アクセスをされた場合に、悪用されるリスクが考えられます。
自分が亡くなった後、残された遺族が早期に処理できるようにアカウント情報は残しておくといいでしょう。
専門家や信頼できる人への死後事務委任も◎
生前の備えとして、専門家や信頼できる相手と「死後事務委任契約」を結ぶ手もあります。
死後事務委任契約って?
自分が死んだ後の事務手続を、相手に委任する契約です。
一般的な委任内容は下記の通りです。
- 葬儀、埋葬手続
- 医療費等の清算
- 友人、知人への連絡
- 各種サービスの解約
- 遺品整理
契約と名前があるように、頼む内容は自分で自由に決められます。
専門家として相応しい人は、弁護士、司法書士、行政書士など、法的知識に明るい人が適役だといえます。
が、先ほど述べたように「自由」です。
信頼できる配偶者や友人、従業員にお願いすることも可能です。
似たような制度に「遺言執行者」「財産管理委任契約」等もありますが、デジタル遺品の処分について備えるなら、死語事務委任契約が適切でしょう。
まとめ
様々なものがデジタル化される中、都度、問題になるのが個人情報の取扱いです。
しかし、自分以外に触れさせない事に重きを置くあまり、相続時にとんでもない大問題になるケースもあります。(生きている間には頼もしい限りですが。苦笑)
自分に関する情報を誰に、どこまで開示したいのか。
日々自問自答し、こまめに見直しておきましょう。
この記事を書いたのは
ヲタク行政書士®榊原沙奈です。