
本記事では、遺留分侵害額請求に必要な手続きや流れを解説します。
Contents
遺留分を侵害されている状態とは
遺留分の侵害とは、具体的にどのような場面を言うのでしょうか。
遺留分は、一定の相続人に法律で認められる相続の最低保障額です。
たとえば、300万円の遺留分を持っている相続人に対し、死亡人が遺言書で「100万円を相続させる」とした場合、200万円分の遺留分を侵害されていることになります。
つまり、遺留分を侵害されている状態とは、相続によって取得する財産が、自分の持つ遺留分よりも少ない状態のことをいいます。
遺留分侵害額請求とは
遺留分を侵害された法定相続人は、自分の遺留分を侵害している相手に、侵害した金額を請求することができます。
これを「遺留分侵害額請求」といいます。
請求の対象となる遺贈・贈与と順序
侵害した人が1人であれば問題になることはありませんが、複数人が侵害している場合には、次の順位で負担することが定められています。
- 受遺者と受贈者がいる場合、受遺者が先に負担する。
- 受遺者が複数いる場合、または、受贈者が複数いる場合において、その贈与が同時にされたものであるときは、目的価額に応じて負担する。
- 受贈者が複数いる場合、後に贈与を受けた人から順番に負担する。
受遺者と受贈者の違いは?
聞き慣れない方もいるかもしれないので、簡単に説明しておきます。
「受遺者」は、遺言書によって遺産を贈与された人
「受贈者」は、財産を贈与された人
どちらも無償で財産をもらったことに変わりはありませんが、その原因が「贈与」か「遺言による贈与」かの違いがあります。
消滅時効と請求期限
遺留分侵害額請求の消滅時効は、次の通りです。
- 相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間
また、相続開始のときから10年間が経過した場合には、除斥期間という締切にかかるため、請求ができなくなります。
侵害された額の算定方法
侵害額は次の計算式により算定します。
遺留分=(みなし相続財産※)×総体的遺留分×各権利者の法定相続分割合
※みなし相続財産=相続開始時の財産+贈与財産の価格ー相続債務
総体的遺留分:財産全体に占める遺留分の割合を指します。相続人が直系尊属のみであれば3分の1、それ以外は2分の1です。
アンダーライン部分の「総体的遺留分×各権利者の法定相続分割合」を個別的遺留分と呼び、実際の遺留分額を知るために必要な計算式です。
例:配偶者+子2人が相続人の場合
計算式だけではわかりづらいでしょうから、1つ例を挙げてみます。
- 相続財産は3,000万円、債務なし
- 相続人は配偶者A、子B、子C
- 遺言書で指定された割合は次の通り
- A…2500万円
- B…400万円
- C…100万円
法定相続人はABCの計3人なので、総体的遺留分率は1/2です。
法定相続分はAが1/2、BとCは各1/4です。
上記の例だと侵害されているのが明らかなのはBとCなので、この2人について計算します。
B、Cの遺留分=3,000万円×1/2×1/4=各375万円
これらを実際の相続分から差し引くことで、侵害額を求めることができます。
B:375万円(遺留分)ー400万円=△50万円…侵害額なし
C:375万円(遺留分)ー100万円=275万円…侵害請求できる
Bは、自分の遺留分よりも多くもらっているため、請求をすることはできません。(むしろ、Cから請求される可能性はあります。)
いっぽう、Cは自分の遺留分を275万円を侵害者であるAに請求することができます。
遺留分侵害額請求の方法は?
遺留分侵害額請求の具体的な方法は次の通りです。
(1)話し合い
当事者が親族間となるため、まずは話し合いから始めることになります。
一般人同士での話し合いは論点がずれたり、正解がわからず迷子になることも多いため、あらかじめ、弁護士や司法書士、行政書士等に相談し、論点をまとめておくのがおすすめです。
(2)内容証明郵便の送付
話し合いがまとまらない、または、応じてもらえない場合、調停の申立を考えます。
時効等が迫っている場合、1度内容証明郵便で遺留分侵害額請求をする意思表示をしておきましょう。
これにより、意思表示をしたときから5年間という金銭債権の消滅時効が適用され、時効の進行を止める事が出来ます。
(3)調停
調停は、家庭裁判所に申立ての手続きをすることで行います。
調停員が間に入り、お互いの主張を個別に聞き取って、和解を目指して仲介してくれます。
当事者同士では気づけなかった点や、すれ違いの解消などが期待でき、ここで合意に至れば調停成立となります。
(4)訴訟
調停でまとまらなかった場合、遺留分侵害額請求訴訟となります。
訴訟には、専門的な知識が不可欠なので、できれば弁護士に相談してみましょう。
必要な証拠を自分で集め、立証することで、勝訴を目指します。
まとめ
本記事では、遺留分侵害額請求の方法や手続きについて解説しました。
死亡人の意思に反するとして、遺留分制度に抵抗感を抱く方もいらっしゃいますが、遺留分は法定相続人に認められる法律上の権利です。
後ろめたさを感じることはありませんから、適切に対処していきましょう。
相続に関するお悩みは行政書士、司法書士、弁護士までご相談ください。
本記事を書いた人は
ヲタク行政書士®榊原沙奈です。