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開業資金をどう調達するか──。
独立・創業の相談を受けていると、必ずといっていいほど出てくるテーマです。
中でも「日本政策金融公庫」は、創業初期の資金繰りで頼りにされる公的機関のひとつ。
ただ、「審査が厳しそう」「何を準備すればいいの?」という声も多く聞かれます。
本記事では、日本政策金融公庫で融資を受けるメリットと注意点を、実務目線でわかりやすく整理します。
これから創業融資を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
Contents
日本政策金融公庫とは
日本政策金融公庫(にほんせいさくきんゆうこうこ)は、政府が100%出資している“国の金融機関”です。
民間の銀行や信用金庫では対応しづらい、中小企業・小規模事業者・個人事業主・農林漁業者などへの資金供給を担っています。
言い換えれば、「挑戦する人を後押しする金融機関」です。
創業や事業拡大の初期段階では、民間銀行よりも柔軟な融資制度が用意されています。
日本政策金融公庫の審査基準
日本政策金融公庫の審査は、数字だけでなく「人」を見ています。
融資を受ける上で重視されるのは、次の5つの項目です。
- 自己資金率
- 返済能力
- 信用度
- 事業可能性(継続性)
- 事業収益性
このうち、「自己資金率」と「事業計画の現実性」が特に重要です。
どれほど立派な理念を書いても、資金の裏付けと計画の筋が通っていなければ通りません。
反対に、堅実な計画と誠実な姿勢が伝われば、初めての創業でも十分にチャンスはあります。
審査を通過するためのポイント
1.自己資金の確保
融資審査では、「どれだけ自分で準備できたか」が最初に見られます。
日本政策金融公庫の「新創業融資制度」では、創業資金総額の10分の1以上の自己資金があれば申込可能です。
ただ、経験上は必要資金の3分の1程度を目安に持っておくと安心。
見せ金ではなく、実際に自分で積み立てた資金が望ましいです。
自己資金と認められるお金の例としては、自分名義の預貯金、返済義務のない贈与金、退職金、財産の売却益、相続財産、保険の解約返戻金などがあります。
短期間で資金を集めにくい場合は、クラウドファンディング、副業、出資者を募るといった方法も検討できます。
- 自分名義の預貯金口座の残高
- 返済義務のない贈与金
- 退職金
- 自己所有の財産の売却益
- 相続財産
- 保険の返戻金など
2.事業の専門性
創業時はまだ実績がないため、「この人に任せて大丈夫か」という点を経歴や経験から判断されます。
全く異なる業種での起業だと、やはりハードルは上がります。
いっぽうで、同業界での勤務経験が長い、受賞歴や資格がある、業界内での人脈があるなど、“根拠をもって語れる”経歴があると、信用は一気に上がります。
3.事業計画の緻密さ
審査時には、提出した「創業計画書(事業計画書)」をもとに面談が行われます。
形式上の書類ではなく、“現実にどう回すのか”を数字で示す資料です。
特に重視されるのは、
- 実現可能性
- 返済能力
公庫の公式サイトで公開されている雛形を使えば、基本項目はすべて押さえられます。
出典:事業計画書 / 創業計画書(日本政策金融公庫)
作成時のポイントは以下のとおりです。
- マーケティングリサーチ(市場調査)、競合分析は入念に行う
- できる限り具体的かつ実現性のある計画を策定する
- 専門用語を避け、わかりやすい内容に仕上げる
- 競合との差別化を踏まえ、自社の強みを強調する
- 資金繰り、返済計画を立てる
書類には人柄も出ます。数字だけでなく、誠実に取り組んだ跡が見える計画書が、最も信頼されます。
資金繰り、返済計画
資金繰りとは、お金の流れをコントロールする力のことです。
「何に・どのくらい使い、どのように返すのか」──ここを曖昧にしたままでは、審査はまず通りません。
申込前に、設備投資や仕入れなどの見積書・請負契約書を揃え、申込書類に添付しておきましょう。
これにより、資金の使途が明確になり、担当者の安心感が増します。
また、日本政策金融公庫では審査の際、経営者本人の信用情報を照会します。
確認される主な項目は次のとおりです。
延滞・滞納・強制解約などの履歴がある場合は、審査に影響することがあります。
ただし、金融事故情報は通常5〜10年で抹消されます。
以前の記録が原因で落ちた場合でも、一定期間をおいて再申込みすることは可能です。
日本政策金融公庫 融資の流れ
日本政策金融公庫の融資は、次のステップで進みます。
- 事前相談
- 申込
- 面談、審査
- 融資決定、契約手続
- 融資実行
- 返済の開始
1.事前相談
まずは日本政策金融公庫のホームページで、最寄りの支店を検索します。
事前相談では、担当者から必要書類や注意点を案内してもらえます。
ここでしっかり準備しておくと、後の審査がスムーズです。
2.申込
窓口または郵送で申し込みを行います。
最近ではオンライン申請も一部制度で対応しています。
3.面談、審査
提出書類をもとに、担当者との面談が行われます。
ここでよく聞かれるのが、「なぜこの事業をやりたいのか」「返済はどう見込んでいるか」。
数字の整合性も大事ですが、本人の言葉で語れるかどうかが大きなポイントです。
その後、必要に応じて現地調査(実地確認)が行われ、正式な審査に入ります。
4.融資決定、契約手続
面談・審査で問題がなければ、融資決定の通知が届きます。
送付された契約書類に署名・捺印し、必要書類を提出して契約手続を完了します。
もし審査に通らなかった場合でも、理由を分析し、一定期間をおいて再申込みが可能です。
5.融資実行
契約手続きが終わると、指定の口座に融資金が振り込まれます。
入金までの期間はおおむね数日〜1週間ほどです。
6.返済の開始
契約内容に基づき、原則として毎月の分割払い(月賦)で返済が始まります。
返済が始まった後も、経営相談や資金繰り支援など、フォロー体制を活用できます。
日本政策金融公庫で融資を受けるメリット
日本政策金融公庫の融資は、民間金融機関に比べて「創業者に優しい制度」が整っています。
代表的なメリットは次の4つです。
- 低金利で借りられる
- 無担保、無保証の制度がある
- 創業初期でも申し込みやすい
- 返済期間にゆとりがある
1.低金利で借りられる
日本政策金融公庫の金利は、民間銀行や信用金庫よりも低めに設定されています。
制度ごとに差はありますが、上限と下限の幅が狭く、条件が安定しているのが特徴です。
たとえば、創業者が利用しやすい「新創業融資制度」では、年利1.90〜3.90%(※有担保の場合 令和7年10月時点)。
メガバンクのビジネスローンで10%を超えるケースもあることを考えると、かなり良心的といえます。
→ 金利情報はこちらをご確認ください。
2.無担保・無保証の制度がある
民間の金融機関では、担保や保証人を求められるのが一般的です。
しかし日本政策金融公庫の「新創業融資制度」では、無担保・無保証での融資が可能。
さらに、代表者個人の連帯保証を外すこともできます(その場合、金利が0.1%上がる仕組み)。
つまり、「創業したばかりで保証人を立てにくい」人にも門戸が開かれています。
3.創業初期でも申込みやすい
民間金融機関は、過去の決算データや取引実績を重視します。
一方で日本政策金融公庫は、事業計画と人物評価を軸に審査を行います。
会社員から独立する人、実績の少ない個人事業主でもチャンスがあります。
「銀行に断られたから終わり」ではなく、「まず公庫で基礎をつくる」という選択肢を持つことが大切です。
ただし、融資実行率はおよそ5割前後。
甘くはない分、きちんとした準備が報われる設計になっています。
4.民間の金融機関と比べ、返済期間にゆとりがある
民間ローンでは1〜3年の短期返済が多いですが、日本政策金融公庫では5年、10年といった長期返済も可能です。
これにより月々の返済負担を軽減でき、事業を軌道に乗せるまでの時間を確保できます。
ただし、返済期間を延ばすほど総返済額は増えるため、返済期間=余裕ではない点に注意。
事業計画と資金繰りを照らし合わせながら、慎重に設定しましょう。
日本政策金融公庫で融資を受ける際の注意点
どんな制度にもメリットと裏があります。
日本政策金融公庫の場合、注意すべきは主にこの2点です。
- 審査に時間がかかる
- 支店や担当者を選べない
1.審査に時間がかかる
公庫の審査期間は公表されていませんが、1〜2か月かかるケースもあります。
民間の銀行なら2〜3週間で結果が出ることを考えると、スピード感は劣ります。
開業時期や設備投資のスケジュールが決まっている場合は、早めの相談・申込みが必須です。
審査中に資金が尽きる──そんな事態を防ぐためにも、時間の余裕を見て動きましょう。
2.支店や担当者を選べない
日本政策金融公庫では、納税地を基準に支店が自動的に決まります。
紹介や指名で担当者を選ぶこともできません。
人によっては「当たり外れがある」と感じることもありますが、担当者も同じく制度の枠内で動いています。
必要なのは、「この人なら貸せる」と思われるだけの準備と一貫性。
支店検索はこちらから:店舗のご案内 | 日本政策金融公庫
日本政策金融公庫の審査基準、申込時の注意点 まとめ
日本政策金融公庫の融資は、創業者にとって最初の資金調達先として非常に心強い制度です。
金利の低さや無担保制度など、民間では得られない柔軟さがあります。
ただ、忘れてはいけないのは──融資は「ゴール」ではなく「事業を続けるための入口」だということ。
計画の甘さや返済への見通し不足は、後々の経営を苦しめます。
数字と理想、どちらか一方に偏らず、現実的なラインで設計することが大切です。
事業計画書を作る段階で行き詰まったり、制度選びに迷った場合は、専門家への相談もひとつの方法です。
行政書士として、創業計画書の添削や融資申請書類のサポートを行っていますので、必要な方はお気軽にお問い合わせください。
